授業料無償化と子ども手当で学習費はまかなえるか?
伊藤亮太(いとう りょうた) 現在、スキラージャパン株式会社取締役副社長。 CFPR、DCアドバイザー、証券外務員資格保有。 慶應義塾大学大学院商学研究科(専門は社会保障・年金)修了後、証券会社の営業・経営企画部門等を経て2007年11月、「スキラージャパン株式会社」を設立。個人の資産設計を中心としたマネー・ライフプランニングの提案・サポート等を行うと同時に、企業やオーナーに対する経営コンサルティング、相続・事業承継設計・保険設計の提案・サポートを主に行っている。 また、CFPR認定者として、FP受験講座等の講師として活躍するかたわら、大学等で金融や資産運用、年金、保険などの講演も行っている。著書として、『ゼロからわかる金融入門 基本と常識』(西東社)などがある。 公式サイト|伊藤亮太ファイナンシャルプランナー http://www.ryota-ito.jp |
いよいよ本年4月から公立高校の授業料が無償化されます。また、6月からは子ども手当が月額13,000円支給(平成24年度からは月額26,000円の予定)される予定です。子どもを持たれる家庭にとってはうれしいことであるものの、今後の財源確保のための増税が気になるところではないでしょうか。今回のコラムでは、実際に子どもの学習費がどの程度かかるのかを確認するとともに、公立高校の授業料無償化と子ども手当により学習費のどのくらいの金額をまかなうことができるのかを考えてみたいと思います。さらには、学習費をあらかじめ用意しておくにはどのような方法があるのか、また用意できなかった場合の対処方法にはどんなものがあるのかといった点にも触れておきたいと思います。
平成22年1月27日に、文部科学省より発表された『平成20年度「子どもの学習費調査」』によると、近年における幼稚園、小・中・高校の学習費総額はほぼ横ばいで推移しているとのことです。平成20年度の各学校種における学習費総額の結果(概略)を掲載すると、下記のとおりとなります。
(単位:円/年、1人あたりの金額)
区分 | 幼稚園 | 小学校 | 中学校 | 高等学校(全日制) | ||||
公立 | 私立 | 公立 | 私立 | 公立 | 私立 | 公立 | 私立 | |
学習費総額 | 229,624 | 541,226 | 307,723 | 1,392,740 | 480,481 | 1,236,259 | 516,186 | 980,851 |
うち学校教育費 | 131,678 | 369,786 | 56,019 | 792,604 | 138,042 | 946,594 | 356,937 | 782,953 |
うち学校給食費 | 14,932 | 27,577 | 41,536 | 35,836 | 37,430 | 590 | - | - |
うち学校外活動費 | 83,014 | 143,863 | 210,168 | 564,300 | 305,009 | 289,075 | 159,249 | 197,898 |
(出所)文部科学省『平成20年度「子どもの学習費調査」』
この結果をみても分かるように、学習費総額では公立と私立において大きな開きがあるといえます。ここで、子ども手当で支給される金額(平成23年度は156,000円/年、平成24年度以降は312,000円/年(予定))を全額学習費にまわしたとして、また学習費調査の結果における公立高校の授業料116,628円が全額無償化されたとした場合における年間の学習費総額を推測してみましょう。なお、平成23年度、24年度も学習費総額は平成20年度学習費調査結果と同じであると仮定します。また単純化のために、4月1日生まれの者を想定して計算し、平成24年度以降の学習費は現在価値として推測します。他の要素(保険料率アップなど)による影響もここでは考慮しないこととします。
平成23年度の学習費負担総額(推測)(単位:円/年、1人あたりの金額)
区分 | 幼稚園 | 小学校 | 中学校 | 高等学校(全日制) | ||||
公立 | 私立 | 公立 | 私立 | 公立 | 私立 | 公立 | 私立 | |
学習費総額 | 73,624 | 385,226 | 151,723 | 1,236,740 | 324,481 | 1,080,259 | 399,558 | 864,223 |
平成24年度以降の学習費負担総額(推測)(単位:円/年、1人あたりの金額)
区分 | 幼稚園 | 小学校 | 中学校 | 高等学校(全日制) | ||||
公立 | 私立 | 公立 | 私立 | 公立 | 私立 | 公立 | 私立 | |
学習費総額 | 82,376 | 229,226 | 4,277 | 1,080,740 | 168,481 | 924,259 | 399,558 | 864,223 |
(注)赤字は余剰金額、つまり学習費以外にも使用できる金額となります。
(出所)文部科学省『平成20年度「子どもの学習費調査」』をもとに筆者作成
あくまでも子ども手当を全額学習費にまわした結果ですが、公立高校の無償化とともに、家計における教育費の準備においては負担の軽減になると思われます。平成24年度以降では、子ども手当の月額26,000円支給が実現すれば、公立幼稚園と公立小学校のお子様をお持ちの場合には、子ども手当により学習費総額がすべてまかなえることとなります。
しかしながら、今後も私立幼稚園・小学校、中学校以降のお子様をお持ちの場合、子ども手当や公立高校の授業料無償化だけでは、学習費はまかなえないと推測されます。したがって、子どもの教育資金をあらかじめ準備しておくことは今後も重要であるといえます。
それでは、教育資金を準備する方法にはどんなものがあるのでしょうか。一般的に、教育資金の準備方法としては、安全性と流動性を重視した運用を行うべきといえます。したがって、普通預金や定期預金で確実に貯蓄する方法が無難といえます。また、親に万が一のことがあった場合等の教育資金を確保したいというニーズに対応するには、学資保険や子ども保険に加入する方法も考えられます。安全確実に教育資金を準備しましょう。
なお、教育費用のすべてを準備資金でまかなえそうにない場合には、日本学生支援機構などの奨学金を活用する方法や、日本政策金融公庫が行う「国の教育ローン」を活用する方法があります。国の教育ローンでは、平成21年8月3日以降、融資額が学生1人につき200万円から300万円に引き上げられています。ただし、年間収入(所得)による制限があるため、注意が必要です。また、財形貯蓄制度に加入されている従業員の方であれば、雇用・能力開発機構が行う「財形教育融資」を利用する方法もあります。
もし教育費用に対して準備できるか不安がある方は、まずは安全確実にある程度の教育資金を蓄えられるように、資金準備計画を行われてはいかがでしょうか。
本コラムは、スキラージャパン株式会社ホームページ『FPコラム』に掲載したものを手直ししたものになります。
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