――辻さんが考える「孤独」の「孤立」の違いは。
「孤独である」というのは、自分を大事に思って、ひとりの世界をきちんと持っている人ですね。だから「私は孤独です」っていうのは、すごくいいことだと思う。
「自己嫌悪」も、実は悪い言葉じゃなくて...。自分を批判するということは、自分をきちんと見ているっていうことなんですよ。
――「孤独」な人ほど、自分を客観視できてると。
「俺は駄目な人間だ」って思えることは、何も悪いことじゃない。自分の悪さを知っているのだから。
自己嫌悪に陥る人もいると思うけど、それは理想が高いのだと思う。それだけ志があるということじゃないかな。「孤独」も似ていて、自分の世界をきちんと持ってるからこそのひとり。
――では、「孤立」は?
「孤立」は、しっかりとした自分の世界を持っていない。社会の中で適応できず、他者の悪口を言ったり、周りから疎外されてしまう。それが「孤立」だと思う。
「孤独」は、自ら選んで「ひとり」であって、人とつるまずに自分の中の精神を極めていくということ。素晴らしいこと。
でも、「孤立」っていうのは違うんですよ。みんなに嫌われて孤立してるんですから。つらいんです。孤独はいいけど孤立は駄目だっていうのは、そういうことなんですよ。
魂や心は死ぬまで成長を続けている。だけど「自分は60で終わり」って思えば、そこまでの人生になってしまう。たとえ80歳でも90歳でも、明日があるって思える人って長生きして成長できると思います。身長は十代で成長を止めるけれど心は死ぬまで成長を続けます。
<プロフィール>
辻仁成(つじ・ひとなり)
東京都生まれ。フランス在住。1989年『ピアニシモ』ですばる文学賞を受賞し、作家デビュー。1997年『海峡の光』で芥川賞、1999