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個人は老いをどう受け止めるのか

2020/06/26 15:59kireidoll
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老いの受け止め方

1. 個人は老いをどう受け止めるのか

 老いをどのように受け止めるのかには、男と女で違っている。「もう年だから」とか、体力や気力の衰えを自覚し、「自分は若くはない。年寄りだ」と認知することを老年自覚(age identification)ないし老性自覚と呼ぶ。男性に比べて長生きであるにもかかわらず、女性は男性よりも早い年齢で老いを自覚する。それは、女性が男性よりも鏡を見る機会が多いからではなかろうか。男性の多くは、お腹が出て、しわやしみができ、髪の毛が薄くなっても老いを自覚することが少ないような気がする。ところが女性の場合には、鏡を見るたびに、しわやしみ、白髪などに嫌でも気づかされる。洋服を買う度に、試着室の鏡の前でためつすがめつ自身の体型の変化をチェックするのは、もっぱら女性だ。

 もう1つ、性別役割分業社会では、女性には弱音をはくことが許される。庇護されるべき性と位置づけられている女性は、年齢を理由にして責任のがれをすることが少なくない。それに対して、男性には弱音をはくことが許されない。とりわけ職場において心身の不調を訴えることは、ただちに降格や責任のないポストへの左遷につながる。弱音をはけない男性は、医療機関にかかることが遅れ、気がついたときには手遅れということになりやすい。

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 お茶の水女子大学21世紀COEプログラムが小田原市の中年女性(45~64歳)とその夫を対象に実施した「ミドル期の危機移行に関する調査」(2003~2004年)4)では、どのような変化を老いのきざしとして自覚しているのかを尋ねている(複数回答)。夫妻とも、7割以上があげているのは、「白髪、髪が薄くなる、髪が抜ける」と「老眼、細かい字が読めない、目が疲れやすい」である。妻が夫を大幅に上回るのは、「しわ、しみ、たるみ」(妻66.5%、夫43.6%)や「おなかがでる」(妻53.9%、夫30.5%)で、容姿へのこだわりが強いのに対して、夫は「体力が衰える、疲れやすい、徹夜できない、疲労回復に時間がかかる」(妻56.4%、夫66.7%)などそれまでの活動が続けられなくなったことへの嘆きがうかがわれる。こうした相違は、「外形によって評価される女性」すなわち「見られる性である女性」と「仕事によって評価される男性」すなわち「活動する性である男性」という社会文化的につくられた男女のイメージ差に由来する。

2. 社会は老いをどう受け止めるのか

 老いをどのように受け止めるのかは、時代により、社会により異なる。西洋と東洋では、老いの受け止め方が違っている。若さを尊重する文化を持つ西欧諸国では老いて衰えゆくことへの抵抗感が強い。それに対して、長幼の序や敬老の精神を重んずる文化を持つ東洋の国々では高齢者は比較的高い地位を保つことが可能だと言われてきた。

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 もちろん、こうしたステレオタイプ的な見方が、高齢者のすべてに当てはまるわけではない。食糧の少ない地域では、集団が生き延びるために、棄老という現象がみられたことが、世界各地で報告されており、日本にも姨捨(おばすて)伝説が存在した。

 社会における高齢者の位置づけには、その社会において高齢者がどのような役割を果たしているのかによって違っている。「男は外、女は内」あるいは「男は支配し、女はそれに従属する」という性別分業は、ほぼどの社会にもみられた現象であり、女性の社会的な地位の低さが、高齢女性に対する否定的なイメージに反映している。ひろたまさきは、近代以前の老人イメージには、老爺よりも老婆にマイナス・イメージが強いように思われると指摘している5)。日本の昔話では舌きり雀の意地悪ばあさんがよく知られているし、老女が鬼に化けるという話も伝わっている。

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 男性の厄年は25、42、61歳だが、女性の厄年は19、33歳。女性は男性に比べて、早い年齢で人生の盛りを過ぎるとみなされてきた。また、生殖年齢に注目して人生を区切る見方もあった。女性は7の倍数で区切られ、14歳で月経が始まり、28歳でピークに達し、35歳で老化が目立ち始め、49歳で閉経する。これに対して男性の場合は8の倍数で区切られ、16歳で精通し、32歳でピークに達し、40歳で老化が目立ち始め、64歳で精が尽きるとされている6)。つまり男性はかなり高齢になっても子どもをつくることができるが、女性にはその能力が欠けており、より早い時期から老境に入るとみなされてきた。

 高齢者のイメージにおける西洋と東洋の差異は、近年少なくなってきている。高齢人口の増加に伴い、高齢になっても活躍し続ける人が増加した結果、西洋においても高齢者に対する肯定的なイメージが広まっている。他方、東洋においても、技術革新が進み、ICTAIが普及するにつれて、そうした新しい技術についていかれない高齢者を軽視ないし無視する傾向がみられるようになった。洋の東西を問わず、高齢者の地位は、かなり曖昧なものになってきている。

 女性についてはどうだろうか。「見られる性」「容姿によって評価される性」である女性は、高齢になればお役目ごめんとして、陰に追いやられるのが普通だった。映画やテレビにおいてヒロインは常に若い女性であり、時たま登場する高齢女性は祖母か使用人くらいであった。コマーシャルの主役はせいぜい30歳くらいまでの女性であり、高齢の男女はお呼びでないという状況が長く続いてきた。

 こうした傾向は、若者は消費するが、高齢者は金を使わないという思い込みが前提になっていた。しかし、高齢人口が増加する一方で、若者の貧困化が進行する今日では、むしろ高齢者のほうが消費傾向が高く、必然的に高齢者を消費の対象にせざるを得なくなっている。中高年男性を対象とした育毛剤のコマーシャル、高齢女性を対象とした鬘かつらや化粧品のコマーシャル、そして介護用品のコマーシャルには高齢の男女が登場する。消費者としての高齢者が注目されることは、高齢者イメージの変化につながるだろう。

おわりに

 本稿では、もっぱら老いにみる男女の違いを取り上げてきた。しかし、社会的文化的性であるジェンダーは、必ずしも男女に限ったものではない。性的少数者であるLGBTの老いについては、現在のところほとんど手付かずである。アメリカで開催される学会や国際会議を除いては、LGBTの老後生活や老後問題が取り上げられることはほとんどない。http://www.ai-doll.com/sizedoll/138cm.html

 異性愛者を主流とする社会において、高齢になった時に、LGBTが直面する制度上の壁にも注目しなければならない。同性愛者のパートナーが、入院時の保証人になれるのか、手術の同意書や延命治療の中止願いに署名できるのか、遺産や遺族年金は受け取れるのかなどなど、問題は山積している。老いとジェンダーの問題は、やっと研究の緒についたばかりであり、今後の課題として残された部分が少なくない。

〔付記〕本稿は、袖井孝子:女の活路 男の末路、中央法規、2008と一部重複があることをお断りしたい。


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