うきうき家計簿
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読書メモ エンタメのメモ

やぎ 2023/12/30 19:04

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1-20(27件)

[27]  やぎ  2024/09/19 17:52

『武蔵野』   国木田独歩 明治31年(1898年) 27歳

武蔵野に魅せられた語り手(国木田独歩 本人か?)が散歩の心得などを語る、エッセイ風の小説。
国木田独歩は千葉県生まれ、山口県育ち。

武蔵野とは、この本の語り手の見解では東京都と埼玉県の境目あたりの細長い地域で、主に入間郡をさす。豊島区雑司ヶ谷・板橋区・埼玉県川越市・東京都立川市の4点を線で結んだ長四角と、その周辺。また葛飾区周辺も含む。
東京都八王子は武蔵野ではない。



(武蔵野散歩の心得)
・ただ、ぶらぶら歩けばよい。武蔵野で道に迷ったとしても、そこには必ず見るべき何かがある。

・武蔵野の特色は、「人が暮らす町」と「落葉樹の雑木林」が入り組んでいること。
 生活と自然との配合。
 また、都会と田舎とが落ちあって渦を巻くさま。
 少し歩くと林から人家に、また人家から林に。そして坂を上って富士山の落日の美観を得る。

・武蔵野の林で聞く雨音の幽寂(ゆうじゃく)さは、大平原・大森林では聞くことができない。

・葉が落ちて裸になった林に立つと、冬の空が見える。遠くの物音が聞こえる。
 それに比べて、ほかの地域にある松林などは変化に乏しい。

・少し濁った川が、また周囲の景色に適(かな)っている。


(感想)
葉の繁る夏の林と、葉が落ちた秋・冬の林とで聞こえる音が違うなどと、考えてみたことがなかった。独歩の繊細さに驚嘆した。

どうせ昔の東京の話だろうと思っていたが違った。
農家は減ってしまったが、その他は現在にそのまま通じるどころか、散歩や自然観察の新しい視点を得られた気がする。
文章が美しくて良かった。

[26]  やぎ  2024/09/14 19:20

テレビ朝日 ドラマ 『南くんが恋人?』  

神奈川県鎌倉市の高校生・堀切ちよみ(飯沼愛)と、大学生の恋人・南くん(八木勇征)のラブストーリー。
さわやかスポーツ青年だった南くんに、ある日アクシデントが・・・。交通事故から咄嗟に逃れたはいいが、なんと体長15pに縮小され、小さい人になってしまう。ちよみは小さい南くんを受け入れて、自室にかくまうことにする。

ミニチュアの食器をネット通販で取り寄せて、小さい南くんにお弁当を作ったり、高校の手芸部に入って小さい服を手作りしたりと、モテモテの南くんをこっそり独り占め。楽しそうに日々を過ごす ちよみだった。


(感想)
さわやか青年が15pになるというだけで滑稽味があり、ちょっとスラムダンクっぽい設定もありで何となく見ていた。原作は何度もドラマ化されており、今回は男女が逆転して男性が小さくなっている。

ハッピーエンドにはならなかった。
実は交通事故にあったとき南くんは亡くなっていて、神様のはからいなのか、南くんには小さい姿でもう一度、ちよみと過ごす束の間の最後の時が与えられていたのだった。

突然のお別れは悲しすぎるから、残された人がかわいそうすぎるから、小さくなった時間が緩衝材になって悲しみをやわらげる。そうした意味のことがドラマの中で繰り返し語られた気がする。
南くんのお母さんは何年か前に余命宣告の末に亡くなったのだが、心の準備ができて良かった、みたいな話もあった。
しかし最後の、ちよみの一人語りのシーンで驚いてしまった。


「南くん、もう秋になったよ。秋になった。
私は全然ダメだよ。1日に何度も何度もさ、苦しくて息ができなくなるんだ。
ごめんね!ちゃーんと生きるからね!
そのために南くんが小さくなって戻ってきてくれたんだもん、ね!
でもさ、感じるよ、南くん。南くん、見てるでしょ?空の上から・・・」


明るい湘南の空の下、高校に通学してはいるようだが、非常に危うい状態なことが伺えて、ドラマとは言え心配になってしまった。最終回の最後になって「息が苦しい症状が出ているが、生きていく」とは、ずいぶん重い話になって終わった気がする。

以下はドラマとは全く関係のないメモ。私のために、それと娘の行動を理解するための覚書です。

●偏桃体の抑制(緊張緩和)のために
前頭葉の活性化  
運動、瞑想(マインドフルネス)、短時間の昼寝、色々な人とコミュニケーションを取る(会話)、笑う、計算、音読、コーピングなどが有効です。

ストレスにうまく対処しようとすることを、心理学では「コーピング」または「ストレスコーピング」といいます。

・深呼吸する、横になってゴロゴロする。
音楽を聴く。
・友人・家族に電話する。
・持ち物の断捨離をする。
・ピクニックに行く、お寺・神社巡りをする。
・家電を買う。
・一人カラオケをする、焼き肉を食べに行く。
  *問題そのものに向き合い、人の助けを借りたり自分で努力して解決・向上にむかうのも大切。

[25]  やぎ  2024/09/06 17:43

『子を貸し屋』 宇野浩二 大正12年(1923) 32歳

(岩波書店HPより)
友達の忘れ形見を育てている団子屋 佐蔵は,生活苦から幼い太一を商売女に貸し,その謝礼で生計を立てている.浅草を舞台として,銘酒屋の女と意気地のない五十男と孤児とが描き出す哀愁に満ちた「子を貸し屋」,雰囲気は庶民作家としての宇野浩二(1891‐1961)の真価を窺うに十分であろう.


(主な登場人物)
佐蔵(さぞう) 前職は子供靴の製造・販売。今は団子屋。50歳くらい。仕事は何をやってもうまくいかない。酒好きだが真面目で善良な性格。
・太十(たじゅう) ミシン職人。35歳くらい。佐蔵の前職の相棒だった。幼い男子(太一)を残して流行性感冒で死亡。
太一 太十の子。6歳。人懐っこく利口。太十の死後は佐蔵に引き取られ、団子屋で一緒に暮らす。

・おみの 元は肉屋の女中。太十が亡くなる数か月前から関係があった。太十の死後も太一を我が子のように可愛がる。子を貸し屋の保母役となる。
おせき 銘酒屋(表向きは酒を飲ませる店)の私娼(官庁の許可なく、ひそかに売春をする女)。
客の男と二人だけで歩いていると捕まってしまうので、子供を借りてきて親子三人だと見せかけようとする。「私は子供が好きだから、太一ちゃんを貸して欲しい」「ただ手をつないで歩くだけ」などと、佐蔵に上手に話を持ち掛ける。


(感想)
 太一を貸した謝礼は1円札。子連れの男が数日 暮らして毎晩晩酌ができる額のようだ。太一にも駄菓子、花屋敷(遊園地・動物園)、活動(映画)、電車や飛行機のおもちゃなどのお駄賃がある。
 佐蔵が靴屋、団子屋を失敗した経緯や、知らずに「子を貸し屋」となり、知ってからも嫌々ながら可愛い6歳の太一を、売春婦に貸さざるを得なくなる心境が丁寧に書かれている。
 女も最後は商売のためでなく、本当に太一が可愛くなってしまう。温かいのか、だらしないのか。
 貧しい母が「うちの子も!」と来るが、利口そうな太一を見て「うちの子に出来るかしら?」と不安になってくるところが面白かった。

[24]  やぎ  2024/09/02 16:02

24時間テレビ47 愛は地球を救うのか? 日本テレビ 2024年8月31日、9月1日

寄付金着服が明るみになった当番組、今年のテーマの最後の「のか?」には、チャリティーの本質を見つめ直す決意を込めているそうだ。

ほぼ見れてなく、面白い番組だとも思わず、寄付もしたことがない。チラ見したら普段に見ている番組の出演者が多く出ていて、障がい者さんに泳がせるなどは止めたか減ったかしたのかな?と思った。

・司会 好感度抜群の水卜麻美アナ、「ぐるナイ」羽鳥慎一アナ、「上田と女が吠える夜」上田晋也氏
・その他出演者 永尾柚乃氏(ながお ゆの、「ブラッシュアップライフ」の子役、7歳)
・Tシャツデザイン スタジオジブリの宮崎吾郎氏(日テレで度々、ジブリ映画を放映)
・マラソンランナー やす子氏(「ぐるナイ おもしろ荘」で世に出る。ソニー・ミュージック・アーティスツ)
・ドラマ 『欽ちゃんのスミちゃん 〜萩本欽一を愛した女性〜』見なかった。

・たまたま見たコーナー等
YOSHIKI氏の演奏 「Forever love」 「紅」
相葉雅紀氏他の保護犬トリミング(「嗚呼!!みんなの動物園」)は楽しみだったが見られなかった。
マツケンサンバ
谷村新司氏(「サライ」の歌詞を取りまとめた)の追悼
岩田剛典(たかのり)氏が番組中に作製したアートのオークション。3枚で881万円。能登地震復興のため。
やす子氏マラソン

視聴率 12.5%
児童養護施設募金額 4億3801万4800円
その他募金額 10月に発表予定

(マラソン実施までの流れ)
寄付金着服事件が起きた中での番組続行、猛暑のマラソン強行の局の判断に批判が集まる。
フワちゃんによるやす子氏への「●んでくださーい」の投稿への批判と、やす子氏への同情が集まる。やす子氏がうまく対応し、やす子氏の好感度が爆上がりする結果となった。

番組前、折しも最強台風が列島を襲い、悪天候でのマラソンの実施が危ぶまれ注目が集まり、高視聴率につながったと思われる。
マラソンは1日目が日産スタジアム、2日目がスタジアムから両国国技館に向かうコースだった。

私見だが「なぜマラソンを走るのか?」は、たぶん「チャリティー・ミュージックソン」(曲を流し続けて寄付を募る番組)のミュージック・マラソンから発想して本当に走るほうのマラソンをしているのだと思う。深い意味は無いのだろう。
そう思うと、毎回グランドフィナーレの時間に丁度ゴールする演出のバカバカしさも、少しは納得できる。

[23]  やぎ  2024/08/27 14:04

パリオリンピック 2024年7月26日〜8月11日
(勝手な感想ですみません。メモも兼ねています)

時差をざっくり言うと、パリの午前中は日本の夕方にあたる。その日の競技が夕方から始まり、私は夜の10時には寝るからほぼ見られなかった(TVのライブ中継に限ってのこと)。

エンブレムは自由の女神ことマリアンヌがデザインされているそうだ。聖火と融合しててよかった。
競技場は紫色が基調で、どの肌の色にも合うのが紫だからだそうだ。が、スケボー系(自転車の曲乗り?)の演技が見ずらいように感じた。

オリンピックで私が見たいものは何か?と考えると、真剣な勝負が見たいのかな?と思った。
それで、ある時は日本よりも発展途上国を応援した。真剣さがあるような気がしたからだ。

柔道の阿部詩選手が号泣した試合は見てなく、ネット上で賛否両論あったのを知っているくらいだ。号泣は真剣さの表れで良かった気もするし、専門家に言わせると「攻撃ばかりに気持ちがいってしまい、一瞬のスキを突かれて負けた」のだそうで、そうすると真剣な戦略に欠けたような気もするし、ちょっと分からなくなってきた。
柔道はパリ(巴里)で巴投げが見られたのが面白かった。

バレーボールはオリンピックの前にやったネーションズリーグという世界大会でお腹いっぱいになり、確かネーションズリーグというのは何組かのオリンピックの出場権がかかっているのだった気がするが、あんなに直前にやらなくても・・・と思った。
ネーションズリーグで見て、最初の方で勝っていても、最後の最後に勝負弱いのかな?と感じた。その私の仮説が証明されたらいいな、と思う気持ちが勝ってしまい、男子の最後の試合は、ついイタリアを応援してしまった。
でも男子バレーは嫌いではない。

水泳と陸上が見て分かりやすく、勝負感が感じられる競技だと思うが、なかなか見られなかった。今の日本選手の順位を見ると、今更だが高橋尚子選手は 大したものだったんだな、と思う。北島康介選手のような名言も出なかったし、つい過去と比べてしまう。

ゴルフは当たり前のように1打目で穴の近所の芝生(グリーン)の上にボールが乗り、たまに見ているゴルフ番組と違い、みんな上手いんだなと思った。
それとも一見さんには分からない、なんらかの特別ルールがあるのだろうか。

やり投げの北口榛花(はるか)選手の、寝転んでストレッチは私もやっている。私はケガ療養中なので、卓球の早田ひな選手の試合5分前に打ったという痛み止めってやつに興味を持った。

「ケイリン」ていう種目があって、五輪で賭け事が始まったのかと思って驚いた。「ケイリン」は、だいぶ前からやっているらしい。

終わった今では、どの選手にCM契約が行くかに興味がある。今のところブレイキン4位でメダルは逃したが、ダンサーネームShigekixこと半井重幸選手のシゲキックスグミのCMを拝見した。好感度が高いかたなのだろう。

[22]  やぎ  2024/08/18 09:11

『それから』  夏目漱石 明治42年(1909年) 42歳

(解説より)
長井代助は三十にもなって定職も持たず独身、父からの援助で毎日をぶらぶらと暮している。実生活に根を持たない思索家の代助は、かつて愛しながらも義侠心から友人平岡に譲った平岡の妻三千代との再会により、妙な運命に巻き込まれていく……。

(追記:「毎日をぶらぶらと暮らしている」よりは、もうちょっと素敵な人だと思う。ナイフとフォークで食事、紅茶を飲み、花を育てる。人力車に乗り出かけてゆく。翻訳を仕事にしている友人よりも上手に翻訳できる、など。
環境に恵まれ、教育を受けた結果として高尚な人間になり、その見返りに神経が鋭敏になりすぎた。それが丸ごと、自分という人間だ・・・と心得て暮らしている人で、居候の若者に憧れられるだけのことはあると思う。)



(主な登場人物)
長井代助(だいすけ) 29〜30歳。東京に住む。今で言うと、ニートで美肌男子といったところ。文学や音楽を楽しんで生きている。裕福な父の援助を受け、無職で独身ながら、青山の実家から独立して家を構えたばかり。家事をする婆と、代助に憧れる のんきな居候の若者と暮らしている。
「自分は普通よりも鋭敏な神経を持っている」と自覚している。

・代助の父 元は武士の子。実業界で成功した。古い考えを持っていて、代助を援助しながらも本心ではその生き方を否定しており、代助に就職や結婚を勧める。
・代助の兄夫婦 子供2人がいる。代助とは良好な関係。兄は父が関係する会社で偉い役職についている。


平岡常次郎 29〜30歳。眼鏡をかけている。代助の中学時代からの親友。育ちは裕福でない。代助の斡旋によって3年前に妻・三千代と結婚した。銀行員となり関西へ行ったが上司に忖度して退職し、困窮している。3年ぶりに妻と共に関西から帰京して代助と再会。
平岡の妻 三千代  23〜24歳。まつげが長く、眉が濃く、皮膚が薄い。結婚後に病弱になった。平岡夫婦に子供なし。


(感想)
代助の鋭敏な神経や、普通でない脳の様子がよく書かれている。
なぜ働かない?なぜ結婚しない?への答えも書かれている。

代助と三千代が、実は思い合っていたことは、代助が3年前の三千代らしい女性の写真を出して見てみる所と、三千代が「代助さんは結婚したかしら?」と夫に何度となく尋ねていた、ということから、(物語の初めのうちは)薄っすらとわかるくらいだ。

代助が騙されて見合いの席に引っ張り出されたり、都会人は独身であるべきだ、なぜなら・・・と理屈を考えるうちに、どうしても三千代が頭をよぎってしまう。三千代が頭から去らず、その自然に従うことにする代助。平岡に「三千代をくれないか?」と談判する。

だが、社会や家庭で苦労してきた平岡は自分よりも一枚上であった。父や兄も手の平を返す。真夏の暑さも相まって、代助の鋭敏な頭脳の行きついた先は?それで、それから・・・。そこで終わる。
(追記:その続編とされているのが『門』だが、登場人物の名は違うようだ。)
大人向きと言うか、大人っぽい小説で、面白かった。

[21]  やぎ  2024/07/30 18:32

フジテレビ ドラマ 『ビリオン×スクール』

(どういう感じのドラマか?)
 未来的な機器が登場する学園コメディー。
 加賀美 零(山田涼介)は億万長者の社長で、天才的な頭脳の持ち主。完璧なAI教師(安達祐実がAIを演じる)の開発のために、ある私立高校の底辺&問題児クラスの担任になる。加賀美の秘書・芹沢(木南晴夏)も副担任として もぐりこむ。
 時に笑いを巻き起こし、ぎこちなく生徒たちと関わりながらも問題解決に導いて、AI教師の完成をめざす加賀美。

(感想)
 Adoさんが歌う『ルル』という主題歌が、とても番組の雰囲気に合っている。私が通った高校は学力でクラス分けせず、のんびりした所だった。それでも『ルル』の歌詞のように、何かにサヨナラしたくてたまらなかったことは覚えている。
 このドラマで、大人気だが私にはサッパリ良さの分からなかったAdoさんを、初めて良いと思えた。幸せだ。

 木南さんは銭湯の三姉妹の長女役に続いて見ている。この人の声は特殊な感じで、四分の一の ささやき声と四分の三の普通の声の合体のような。台詞を聞くのが楽しみだ。

(AIとは?)
 「Artificial Intelligence(アーティフィシャル・インテリジェンス)」を略してAI。「人工知能」を意味する。コンピュータに人間の知的行動を行わせる技術をさす。

 AIの対義語は「Nature Intelligence(ネイチャーインテリジェンス)」の略でNI。「自然知能」と訳される。NIは人間などが自然に持ちうる知能を意味する。

[20]  やぎ  2024/07/29 16:25

『澁江抽斎(しぶえ ちゅうさい)』 森?外 大正5年(1916) ?外54歳の作品

江戸時代末期の医師、渋江抽斎の生まれる前から没後50年余りまでを森?外が調べつくした記録。
追記:本の書かれた大正5年当時、まだ抽斎の子が存命であったため、直接、話を聞く機会もあったようだ。それによって武士の世が変わっていく様子も少し分かる。

(主な登場人物)
 ・渋江抽斎を教育した先生がた
 ・渋江抽斎(主人公・本人)文化2年(1805)〜安政5年(1858) 代々、現在の青森県地方の殿様付の医師(藩医)をつとめる家系に生まれ(父は子供の頃、他家から養子にもらわれてきた)、本人も医師となる。殿様は江戸に在住していたので、本人も江戸の生まれ。
 医師であると同時に考証家でもあり、古い文献を多数収集していた。しかし、多くは盗まれて古書店に売りに出され、散逸してしまった。

 (?外が古書店で買い求めた歴史の資料の多くに「渋江」の蔵書印が押してあったことから、医師であり歴史・文学好きの面を持つ?外が、自分との共通点を抽斎に見出し、興味を持って、本書『渋江抽斎』が書かれた。)
 
 ・抽斎の家族
  4番目の妻 五百(いほ、いお) 山内一豊の家系から。
  四女 陸(くが) 長唄の師匠、杵屋勝久(一時期、砂糖を売る店を開いていたこともあった)
  七男 保 教師

 ・杵屋の名取のかたがた

(感想)
 物語風の伝記ではなくて、あまりに緻密に調べられた事柄が並んでおり、今では使われない言葉が多い。解説を見ながら読むのが大変だった。
 4番目の妻・五百(いほ・いお)の強盗をやっつけた武勇伝と、四女・陸(くが)の杵屋一門の結束のくだりは面白かった。

 歌手で俳優の吉川晃司さんの先祖と思われる人物の話がほんの少し、間接的に出てくる。それによると抽斎は、吉川家の専属の医師から、ある医術の教えを受けた・・・らしい。

追記:4番目の妻の件
 抽斎の父親が最初の妻を探してきたが期待外れだったため、父が自ら最初の嫁を離縁。2番目の妻はすぐに亡くなった。3番目の妻も亡くなった。
 抽斎の子も幼くして亡くなった者が多い。
 家長の権限が強く、令和の現在と比べて感染症に対する防備・治療法が乏しかった。妻が亡くなれば次の妻を娶るのが義務とも言えることだったようだ。

追記:家系ごとに幕府から給料(米。換金して色々なものを買った)が支給されていたため、家系の存続は大事な経済活動だった、

[19]  やぎ  2024/06/25 09:34

テレビ朝日 『Believe−君にかける橋−』 (2度目)


 最終回をTVerで2度見た。2度見たからこそ面白いと思ったシーンがあったので書いておく。
 主人公・狩山(かりやま・木村拓哉)の裁判での被告人最終陳述のシーン(開始34分ごろ)だ。

 狩山の妻(天海祐希)は裁判所には来ておらず、重病で入院中。しかし、ある用事で病院から許可をもらって外出し、用事が終わって病院へ帰る途中だ。裁判所へは向かわない。街は穏やかな良い天気だ。

 裁判所で語る狩山と、離れた街中をのんびり歩く妻の目線がリンクするのが面白いと思った。
・「橋は土地と土地を、人と人をつなぐ構造物です。橋を人が渡れば」で、妻が橋を渡っている遠景の映像。
・「(橋によって)町ができます。経済が生まれ、文化が生まれます」で、妻がふと振り返る映像。狩山が同じタイミングで視線を移し、まるで2人が目を合わせたよう。
・最終陳述を終え、天井のほうを見上げる狩山。妻も渡っている橋の途中で立ち止まり、同じように空を見上げ、満面の笑顔を見せる。

 1度、最後までドラマを見て、この後の妻の運命を知ってから見直したほうが面白さは増すと思う。
 それにしても、そもそもビジュアルの良い お二人だとは言え、実年齢も役の上でも50代の役者さんが演じたのに、これだけの美しい映像が出来たのは素晴らしいと思う。



補足:ネタバレを避けて書いたため、読み取りが浅くなってしまったので補足させてください。

 妻が病院から外出許可をもらってまで果たしたかった用事とは、夫に有利に働く証言を再度お願いするため、ある人に会いに行ったのでした。
 訂正:外出許可をもらったのは夫の裁判を傍聴するためだったが、ふと思いついて、ある人に会いに行った・・・という流れでした。
 その妻の姿勢は初回の面談とは違って緩(ゆる)やかで、結果がどちらに転んでも構わない・・・と達観したものでした。
 
 やるだけのことをやった、晴れ晴れした帰り道です。証言がなされるのは、まだ先の裁判での事ですが、「なるほど、これで夫に(というか裁判官に)思いが通じないはずはないな!」と思わせる、全く離れた場所での両者のシンクロの場面でした。
 
 年配の夫婦の在り方や、広くは人と人との関係の在り方の、一つの可能性を示唆されたように感じた場面でした。

[18]  やぎ  2024/06/18 18:44

最近TVを見ていてビックリしたこと

・バレーボールの試合中に選手が足を使ったプレーをして、それもOKだとアナウンサーが言っていたこと。
(ずいぶん前からOKだったそうです)

・女子プロゴルファーがミニスカートをはかずに、皆が皆ハーフパンツ等をはいていること。
(7年ほど前にミニは禁止されたそうです)
追記:LPGA(全米女子プロゴルフ協会)のドレスコードだそうです。

・ニュースの時間に「これはAIが読んでいます」と片隅にテロップが出ていたこと。
(地域の楽しいイベントなど、やわらかいニュースは人間のアナウンサーが読んで、役割分担していました)

[17]  やぎ  2024/05/26 17:50

2024年4〜6月のTVドラマ

今クールは3本見ている。
NHK総合 『燕は戻ってこない』
TBS     『9ボーダー』
テレビ朝日 『Believe−君にかける橋−』


『燕は戻ってこない』
 石橋静河(いしばし しずか)がワーキングプアの女性を暗めに好演している。
 今までは、そんなに可愛いとも、お母さん(原田美枝子)に似ているとも思わなかったが、このドラマの石橋さんは可愛く、お母さんによく似ていると思った。
 役からすると微妙なことになるが、石橋静河は稲垣吾郎にも似ている。

 朴?美(ぱく ろみ)の演じる、上品で美しいが どこかうさんくさい、営業のおばちゃん的な女性は、よく出会うタイプで面白い。


『9ボーダー』
 そんなに面白い話ではない。
 なのに見ているのは、私の子供時代の家族構成に似ているからだ。
 子供時代は10人くらいの大家族で、私の10歳上・15歳上に叔母(父の妹2人)、私の23歳上に 私の実母がいた。

 末っ子が19歳で、その10歳上で29歳の次女が川口春奈、そのまた10歳上で39歳の長女が木南晴夏(きなみ はるか)、3人は実の姉妹で、私は叔母・叔母・母だったという違いはある。
 母といると、よく人から「お姉さんですか?お友達ですか?」と言われたものだ。
 19歳と木南晴夏が並んでいたら、確かに親子には見えないな、と気づいた。

 ドラマの三姉妹の銭湯のように家の風呂は薪で沸かしていた。東京の23区内、50年ばかり前のことだ。
 昔の家族構成を思い出すのと、薪が積んであるのを見るのが好きで見ているドラマ、なのかもしれない。


『Believe−君にかける橋−』
 まあまあストーリーも楽しめるが、竹内涼真が可愛いので見ている。
        *この髪型の竹内涼真が可愛いということ。
 看護師長 役の天海祐希の、することなすことに感動する。

[16]  やぎ  2024/05/11 07:04

『破戒』 島崎藤村 明治39年(1906年) 34歳

 タイトルは破壊の誤植ではなく、戒め(いましめ)を守る生き方をやめるということ。
 
 解説によると「韻律に欠陥のある日本語で詩がどこまで書けるか?」という不安と、生活面での見通しを立たせるため詩人から小説家に転向した島崎藤村。その最初のヒット作が本作。
 舞台は明治時代の長野県。
 江戸時代の身分呼称を明治政府が廃止し、エタの呼称は「新平民」となったが、まだ一般には差別が残っていた。


(主な登場人物)
瀬川丑松(25歳) 小学校の教師。エタの生まれ。父の計らいでエタ村を出て9歳からはエタの身分を忘れて成長した。
・土屋銀之助(25歳と思われる) 瀬川の同僚(教師)。学生時代からの友人。観察眼が鋭い。
・風間敬之進(50歳くらいと思われる) 瀬川の年上の同僚(教師)だったが退職する。再婚し、子だくさんとなり生活は苦しい。

・校長 自分を尊敬しない瀬川や土屋を疎ましく思っている。

猪子蓮太郎(40代と思われる) 元教師でエタの生まれのため職を追われ、思想家となり本を著す。著作を読んだ瀬川から、慕われる。

・蓮華寺の和尚  女好き。主人公・瀬川は蓮華寺に下宿する。
・和尚の妻         気が弱い。
お志保(18〜20歳くらいと思われる) 瀬川の年上の同僚の風間の長女。口減らしのため蓮華寺に養女にもらわれた。


(感想)
 父から呪いのような戒めを言い聞かされ、それを守って決してエタ村の出身であるとは明かさぬように生きてきた瀬川だったが、猪子に感化されてゆく。

 と言っても、何もかもが きれいに解決する話にはならず、校長は相変わらず意地悪だし、世の中も変わらない。しかし最後の最後、瀬川の心境の変化によって、瀬川が見ている世界がキラキラと きらめき始める。 
 同僚の土屋が変わってゆく。瀬川の過去をあばく人物かとも思われた土屋が、光り輝く人に変ってゆく。

 この小説のメインのテーマは差別なのだろうが、カミングアウト全般、それもカミングアウトしてしまおうと決心する瞬間からの、きらめく世界が見どころだと思った。

[15]  やぎ  2024/04/17 16:42

CD『一之森大湖です』 歌唱:一之森大湖

(商品説明より)


突如現れた歌謡界の新星、45歳のオールドルーキー
うぃっしゅの DAIGO に出会いプロデューサーとしてサポートを約束され、
ついに掴んだチャンスだが、一方プライベートでは厳しい現実が待ち受けていた。
長年寄り添って、ずっと支えてくれていた妻の一之森景子が出ていってしまったのだ。
一之森は全国をプロモーション活動しながら彼女の行方を探している。


(感想)
このアイデアは面白い。
それでメモしておくことにした。
昭和レトロが私のマイブームなこともあり、これが世に出たことは嬉しくて仕方ない。

[14]  やぎ  2024/04/05 17:44

『たけくらべ』 樋口一葉  (1895年・明治28年 23歳)

現在の山手線鶯谷駅近くの吉原遊郭界隈が舞台の小説。
人の身なりなどは江戸時代のようだが明治初期と思われる。

(河出書房新社のHPより)
時は明治、場所は東京。
思春期の少年少女の淡い思いが交錯する。


(主な登場人物)

・表町の子供たち
 正太郎 13歳。家が金持ち。愛嬌ある性格で美登利(みどり)に屈託なく接する。  
 美登利(みどり) 数えで14歳。遊郭の大黒屋で姉が遊女をしている。その売れっ子の姉の稼ぎを頼って父母と一緒に和歌山から上京し生活している。

・(表町に敵対する)横町の子供たち
 長吉 15歳。ガキ大将。学校の成績の良い信如(しんにょ)が仲間に入ってくれるのを望み、信如のご機嫌を取る。
 信如(しんにょ) 15歳。寺の息子。おとなしくて友達にいじめられていたが、勉強ができるので、 いじめられなくなった。ウジウジした自分の性格が嫌いである。
 三五郎  滑稽者(おどけもの)。祭りで(ライバルの)表町の出し物の口上を打診されたことで(あるいは実際に出演したのかもしれない)、長吉の怒りをかう。
 追記:町同士が敵対しているというより、正太郎が良い子で皆に好かれているので、長吉としては面白くない、というくらいだろうか。
  

(感想)
読みにくい。
主語を書かないので、誰のことを言っている文なのかわからない。
ところが、いつの間にか部分的に ぼんやり理解ができるようになった。

美登利の性格の振り幅の大きさが効いている。
美登利は まず和歌山から出てきて「田舎者」といじめられて泣く。
そのうち豊富な小遣いをもらい、そのお金で友達に遊び道具を買ってやったりして女王様のようになり、ガキ大将に対抗していくような活発な性格になる。

最後、(はっきりと書かれないが)ある出来事で大人にさせられてしまい、活発さは消え失せて、おとなしくなる。
追記:大人にさせられる・・・ある日、いつになく綺麗に着飾り、母と一緒に出掛けて帰ってきてから寝込んでしまう。おそらく遊郭の関係者に何か言い聞かされて、我が身の行く末を初めて具体的に悟らされたと思われる。

そうした美登利の性格の大きな変化が、まるで湖に広がった波紋のように読み手(私)の心を不穏に波立たせ、
そこへ有名な鼻緒と水仙の無言のやりとりの場面が重なって見えてくるといった次第だ。

そんなことを体感できる小説は他にないだろう。
どれほど読みにくかろうと、一葉は天才だと言わざるを得ない。

[13]  やぎ  2024/03/28 06:50

『五重塔』 幸田露伴 著(1891年・明治24年 24歳)

1791年(寛政3年)江戸の谷中 天王寺に建立された五重塔をモデルにしたと言われるフィクション。
五重塔建立の計画を聞きつけて一念発起し、親方を差し置いて「俺に作らせてください!」と寺に直訴する十兵衛だったが・・・。


(「解説」より)
露伴の前期の代表作。
「のっそり」と仲間からあだ名される大工 十兵衛は、谷中感応寺の五重塔建立を聞いて、工匠として腕を振るうは この時とばかり、親方の源太に代わって独力で建立せんことを感応寺の上人(高僧)に懇願する。


(主な登場人物)
のっそり十兵衛 ベテランの大工。腕は良いが仲間内で上手く立ち回れず、貧乏している。
お浪        十兵衛の妻 24〜5歳。控え目な性格。
猪之助(いのすけ) 十兵衛の息子。4〜5歳と思われる。

源太   十兵衛の親方。寛大な性格。
お吉   源太の妻。煙管(きせる)を吹かす、粋な感じの女。豊かな生活をしているらしく衣装持ち。

感応寺の住職   隠居気分の年寄り。


(感想)
十兵衛を「のろまに見えるが、実は腕が立つ大工」だけでなく、職人の世界の常識として「やっていい手抜き」を一切しないから効率が悪いのだ、とか、自分たちは親方にイチから仕事を習ったが「十兵衛なんか渡り職人じゃねぇか!」とか、そういうのをちゃんと書いているところが良いと思った。

お吉が持っている和服の数々をタンスから取り出していく場面があるが、生地や柄の名称がいろいろ出てくる。作者の家政の知識が豊富なことが知れる。

徒弟・義理・意地・建築といった固く灰色のイメージの中で、息子の猪之助が可愛らしく、明るい差し色になっているのも良いと思った。

他の登場人物が皆、気の強さと下の者への優しさ、顔で笑って心で大激怒、高い身分にありながら決断は他人任せ、などの複数の面を使い分けるところがあるのに対し、十兵衛だけは一本調子なのが際立つ。
ブレない十兵衛は、天をさして すっくと立つ五重塔そのもののようだ。


(五重塔とは)
5階建ての仏塔。
下から地(基礎)、水(塔身)、火(笠)、風(請花)、空(宝珠)。
仏教の宇宙観を表す。

[12]  やぎ  2024/03/21 19:06

『風と共に去りぬ』 マーガレット・ミッチェル著(1929年・昭和4年 29歳) 大久保康雄、竹内道之助 訳

1861年(日本は江戸時代末期)〜アメリカ国内が2つに分かれて南北戦争が戦われた。
その戦中・戦後を背景にして一人の若い女性の12年間を描く、南部・ジョージア州が舞台の小説。
補足:戦争や、戦争にまつわる人物、出来事は事実で、下記の登場人物は架空です。

タイトル『風と共に去りぬ』はダウスンという詩人の詩の一節から取ったもの。
作中には第三部に、スカーレットが命からがら故郷に帰る際に「故郷は、まだ無事なのだろうか。それとも(吹き荒れる戦争の)風と共に去ってしまっただろうか」と不安な心情を吐露する場面がある。


登場人物

・オハラ家
 父 ジェラルド(60歳〜) 農園主。100人の黒人奴隷を使い、綿花を栽培。
 母 エレン(32歳〜) ジェラルドとは年の差婚。16歳で出産。家族と奴隷の世話ばかりか、近所の人たちの世話もやく。
 長女 スカーレット(16歳〜28歳) 主人公。青い瞳と細い腰が自慢。自己中心でエネルギッシュな性格。
 次女 スエレン
 三女 キャリーン

・ウィルクス家
 父 ジョン
 長男 アシュレ(22歳くらい〜) 文学や芸術を愛する金髪で足の長い美青年。
 妹2人

・ハミルトン家
 長男 チャールズ(20歳〜)
 妹 メラニー(17歳〜) 小柄。優しいが芯のある性格。
 叔母 ピティー
  *ウィルクス家とハミルトン家は血縁関係


 フランク・ケネディー(40歳〜) スカーレットの妹・スエレンの、年の差婚約者。大地主。
 レット・バトラー(33歳〜) ケネディーの仕事相手。いつも絶妙のタイミングでスカーレットの前に姿を現す。


(感想)
長くて、読むのにずいぶんかかってしまった。
スカーレットが意外にも4桁の暗算ができ、商才があって材木屋で成功するところが面白かった。

最後に重要人物がことごとく自滅していく。
ある人は生活力のなさが露呈して。
また、ある人は体力がなくて。
また、ある人は(おそらく)策を弄するのに頭が疲れて。
小さな子供さえも、自分の可愛いわがままを通したために自滅する。

ただ一人、スカーレットだけが最後まで勝ち残って、28歳、また明日に向かって走り出して、物語は終わる。

[11]  やぎ  2024/03/08 17:35

『平凡』 二葉亭四迷(1908年・明治41年 44歳頃)

(解説の文より)
二葉亭四迷 最後の作品。
明治の文学者へのきびしい批評となっている。


登場人物
・古谷(39歳) 語り手。法学部中退。小説家から役所勤めに転職。息子あり。
・ポチ 主人公が少年時代に飼った犬。
・父、母、祖母 主人公の家族。

・雪江さん(主人公より3歳下くらい) 学生時代に間借りした遠縁の家の、娘。
・お糸さん(25〜28歳くらい) 小説家時代の下宿屋の女将さんの、姪。


(感想)
二葉亭の自伝のような、そうでないような読みやすい自虐的ユーモア小説。
ところどころに難しめのエッセイが混じっている。

生家の家族、生まれ育ち
飼い犬
学業
女性
作家業
これらを書いている。中でも犬の話が面白かった。



(写実主義についての主人公 古谷の見解)

「写実主義は現実を如実に描写するものではない。
作家の主観に摂取しえた現実の真味を如実に再現するものである。

味わるるものは人生で、味わうものは作家の主観であるから、
作家の主観の精粗によって人生を味わう程度に深浅の別が生ずる。

ここにおいて作家はどうしても
その主観を修養しなければならんことになる。

こんなことを言って、終始言葉に転ぜられていたから、
私はかえって普通人よりも人生を観(み)得なかったのである。」

[10]  やぎ  2024/02/23 11:22

『高野聖(こうやひじり)』 泉鏡花 作(1900年・明治33年 27歳)

(解説の文より)
 作者、円熟期の傑作。
彼の神秘主義と美女礼讃が見事に融合している。
敦賀(つるが・福井県)の宿で、語り手は、宿を共にした旅僧の怪奇な体験を聞かされる。


登場人物
・語り手 僧の体験を聞く、旅の男。
・僧    45〜6歳。高野山の僧。気さくな人柄で、男と旅の道連れになる。
      怪奇な体験をしたのは20代と思われる。

以下は僧の体験談中の人物
・旅の商人  富山の薬売り。嫌味な人柄。
・山奥に住む女  30過ぎくらい。顔にえくぼ、小柄で着やせするタイプ。気が利く。
・次郎  女の夫。22〜3歳。障害を持ち、あまり話せない。足も悪い。
・二人を世話する おやじ  女を「嬢様」と呼び、全ての事情を知っている。


(感想)
独特のリズムが取っつきにくい作品だが、すぐに慣れた。
若かった頃の僧が、山歩きで様々な害虫にやられる話が長く続く。
その傷を女が洗い流す。
女が魅力的なため、この女のような生活もいいかな?と思った。
「高野聖」とは、この僧をさす。


・女が僧の体を洗う描写
「手が綿のように障(さわ)った。
それから両方の肩から、背、横腹、臀(いしき)、
さらさら水をかけてはさすってくれる。」

「その心地の得もいわれなさで、眠気がさしたでもあるまいが、
うとうとする様子で、疵(きず)の痛みがなくなって気が遠くなって、
ひたと附(くっ)ついている婦人の身体で、
私は花びらの中へ包まれたような工合。」

[9]  やぎ  2024/02/18 18:26

『ハムレット』 シェイクスピア 作(1601年・日本は安土桃山時代の終わりから江戸時代の初め頃)  坪内逍遥 訳(1909・明治42年)

北欧の伝説が元になった復讐劇。中世のデンマーク王室の話。

登場人物
・ハムレット前王(故人)
・ハムレット王子 主人公。ハムレット前王の息子。30歳。毒舌家だが以前は好青年だった。

・クローディヤス現王 前王の弟。ハムレット王子のおじ。
・ガーツルード王妃 前王の妻だった。前王の没後は、前王の弟・クローディヤス現王の妻となり兄と弟に嫁ぐ結果となった。ハムレット王子の母。

・ポローニャス侍従長
・オフィリア ポローニャスの娘。ハムレット王子の恋人。

・ホレーショー ハムレット王子の親友。学者。


(感想)
文語の戯曲だが挑戦して読んでみた。
坪内逍遥から、日本の近代文学が始まったと言われているようだ。

現王が家来の誰彼を呼びつけて用事を言いつける。
その家来たちの名前と、言いつけた用件が混乱し、途中からメモを取った。
そうしたら分かりやすくなった。

ハムレット王子は、旅の一座に文字通り一芝居うたせる。
王子が脚本・演出までして悪人をあぶり出そうとする。
ここから一気に面白くなった。


(美文だと思った箇所)

・ハムレット王子の嘆き
「地球というこの立派な大組織も、わしにとっては荒れ果てた岬も同然。
この空(くう)という世にも美麗な天蓋も、
あれ、あの、荘厳な穹窿(きゅうりゅう)も、
燃ゆる黄金(こがね)を鏤(ちりばめ)たる雄大無双の碧落(へきらく)も・・・」


・毒舌家になる以前の、文武に秀でたハムレット王子の描写
「殿上人の目つきに博士の弁舌、
武士(もののふ)の武器業(うちものわざ)、
国の花よ、末々の力よと皆人に頼まれなされて、
風流(みやび)の鑑とも躾の型とも崇められ・・・」

[8]  やぎ  2024/02/06 19:07

グレート・ギャツビー スコット・フィッツジェラルド 著 1925年(大正14年) 29歳  
村上春樹 訳:2006年(平成18年)

(カバーの文)
村上春樹が人生で巡り会った、最も大切な小説を、あなたに。
新しい翻訳で二十一世紀に鮮やかに甦る、哀しくも美しい、
ひと夏の物語ー。
読書家として夢中になり、小説家として目標のひとつとしてきた
フィッツジェラルドの傑作に、翻訳家として挑む、構想二十年、
満を持しての訳業。



舞台はアメリカ東部(ニューヨーク)、1922年ごろの3か月間の話


(登場人物)
ニック 語り手。30歳くらい、証券会社勤務。
ギャツビー ニックの隣に住む大富豪。30歳くらい。

デイジー 語り手・ニックの遠い親戚の女性。30歳くらい。
トム デイジーの夫。ニックの大学時代の友人。実家が金持ちで横柄な性格。
(夫妻には3歳の娘あり)

マートル トムの愛人の女性。30代。ぽっちゃり体型。
ウィルスン マートルの夫、自動車の売買と整備の店を経営。


ニックは父親の忠告を守り、金持ち喧嘩せず的な精神で寛容な人物となった。
寛容ゆえに横柄なトムとも交流する。
あるときNYのこじんまりした一軒家に移り住む。

隣人のギャツビーの家は邸宅で、盛大なパーティーを自宅でしょっちゅう開いている。
そのせいで「良からぬことで金を儲けたのでは?」と、風評が立っている。
そんなギャツビーにも、ニックは来るもの拒まず的な精神で関わっていく。



(感想)
何がグレートなのか、よく分からず解説をネットで読んだ上で、考えてみた。

ギャツビーが5年前に愛した人への、一途な思いを持ち続けていること。
その人にふさわしくなるために手を尽くし、成り上がったこと、
その人のために、どんな犠牲もいとわず、最後まで信じて逃げなかったこと、
それらがグレートなのかな、と思う。


村上春樹さんが多大な影響を受けた作品だという。
同じく、好きだった女性の家の(谷を隔てた)向かいに家を建てる話が、
『騎士団長殺し』だったかに出てきた気がする。

それと「僕」ニックのギャツビーへの視点・関わり方が、
遠巻きに淡々としているが友情があり、
そこが村上作品の「僕」と似た感じを受ける。

訳は無生物主語がそのまんまで、微妙だがそれが味なのかと思う。

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